少年の夏の日を描いた永遠の名作『たんぽぽのお酒』の原書が刊行されてから約50年。その続編にあたる、『Farewell Summer』が米国で先年発表され、今年87歳になる著者、レイ・ブラッドベリがなお健在であることを世界に示しました。
『たんぽぽのお酒』の邦訳が晶文社から刊行されたのは1971年のこと。
中西部イリノイ州の小さな町を舞台に12歳の少年ダグラスのひと夏を描いた物語は、36年たった今も日本の読者に愛され、長く読み継がれています。
☆北山克彦さんの「翻訳の現場から」はこちら。
☆川端裕人さん、いしいしんじさん、蜂飼耳さんの書評はこちら。
「静かな朝だ。町はまだ闇におおわれて、やすらかにベッドに眠っている。
夏の気配が天気にみなぎり、風の感触もふさわしく、世界は、深く、ゆっくりと、暖かな呼吸をしていた。起きあがって、窓からからだをのりだしてごらんよ。いま、ほんとうに自由で、生きている時間がはじまるのだから。夏の最初の朝だ。」
北山克彦 訳 1971年刊 冒頭より
★この極上のワインには生きることの喜びと悲しみ、驚きと恐れが隠されている。少年が垣間見た人生の秘密のすべて。(共同通信評)
★この作品のファンタジーとは、日常、ぼくらがただ鈍感にしか対応できないでいる現実世界の意味の洞察、もしくは発見だと言っていい。(読売新聞評)
『たんぽぽのお酒』続編『さよなら僕の夏』
レイ・ブラッドベリ著
北山克彦/訳 荒井良二/絵
ISBN978-4-7949-6713-8
定価1,760円(本体1,600円)
作品は作者の手を離れたときから作者のものではなくなります。『たんぽぽのお酒』は作者の思いとは別に世界中で読者がそれぞれに思いを育んできました。『さよなら僕の夏』はブラッドベリが50年以上手元において思いをよせ、手にかけてきたものでした。改変改稿の過程そのものが芸術とのかかわりそのものであり、時代の変化、作者の成長と老いを映していく過程に終わりはありません。
…(中略)
訳者としては、これを読むことが、それぞれにとってなにかの新たな経験であり、なにかの発見であることを祈るばかりです。作品はそのことによって、新たないのちを得るのでしょうから。
(訳者 北山氏より)
少年小説の面白さは作者が観念のヨロイを脱ぎすてて直接感受性に訴えることにある。大人である作家は本気に自分の感覚をとぎすまし、子どもに語りかけねばならない。その作家の感受性の形がはっきり分かってくるからだ。(文学のおくりものに贈る言葉-吉行淳之介氏)
1971年「文学のおくりもの」全28巻の第1巻として刊行の『たんぽぽのお酒』。挿絵は長新太氏 。こちらは品切れです。
1920年、アメリカ、イリノイ州生まれ。少年時代から魔術や芝居、コミックの世界に魅了され、のちにSFや幻想的手法をつかった短篇をやつぎばやに発表。
巧みな構成力と素晴らしい想像力によって、一躍SFを文学の方法に高めて注目された。いまやSF文学の第一人者として、その作品のほとんどが翻訳されている。
作品に『十月はたそがれの国』『火星年代記』『華氏451度』『刺青の男』などがある。 最近では自伝的長編小説『緑の影、白い鯨』(筑摩書房)も翻訳された。