「神保町ライター」という言がありますが、どちらかというと、わたしは中央線沿線の古本屋ばかりまわっているフリーライターです。
このたび『古本暮らし』と題する本を書きました。古本屋通いをはじめたのは高校時代、最初はアナキズムに興味があって、そうすると新刊書店ではなかなかそのての本が売っていないので、どうしても古本屋に行くしかなく、しかも当時、三重県の田舎に住んでいたため、電車に乗って、名古屋や大阪や京都の古本屋に行ってました。
十九歳で上京後、『評伝辻潤』などの著作で知られる玉川信明さんと知り合い、アナキズムから辻潤、辻潤から吉行エイスケ、さらにその息子の吉行淳之介、それから第三の新人や同世代の「荒地」の詩人といったかんじで詩や文学に興味がひろがっていき、だんだん古本屋通いも本格化して、気がついたときにはかなり重度の活字中毒になっていました。
上京してしばらくして高円寺に住むようになったのですが、この界隈だけでも二十軒以上の古本屋や古本を売っている飲み屋、古着屋、古道具屋、レンタルビデオ屋があり、さらに西部古書会館で月に三回くらい古書展が開催されていて、中央線沿線の中野駅から吉祥寺駅のあいだに百軒以上の古本屋があり、そのあたりを毎日のように巡回しています。もちろん神保町、早稲田の古本街、京都、大阪の古本祭にも行きます。年間三百六十日くらい古本屋に通っているかもしれません。仕事中も古本のことばかりかんがえています。
二十代はずっと食うや食わずの生活で、原稿の発表場所は、ミニコミや同人誌、小出版社の雑誌が中心だったので、年収百万円をきることもよくありました。こんなに食えないのによくやめなかったとおもいます。
そんな自分の人生の転機になったのは、高円寺のある飲み屋で知り合った『読書の腕前』(光文社新書)の岡崎武志さんに『sumus』という京都で発行していた書物同人誌にさそっていただいたことです。そのことがきっかけで、古本や文学のことを書くようになり、四年前に『sumus』に発表したエッセイを林哲夫さんに『借家と古本』(スムース文庫)という小冊子にまとめてもらいました。
この冊子はすぐ完売し、しばらく品切になっていたところ、高円寺の古本酒場コクテイルの狩野俊さんがぜひ復刻したいといってくれて、昨年秋に増補版が出ています。