そうこうするうちに、今回の『古本暮らし』の単行本の話になりました。編集者は中川六平さん。中川さんは、坪内祐三さんの『ストリートワイズ』、石田千さんの『月と菓子パン』、高橋徹さんの『古本屋月の輪書林』、内堀弘さんの『石神井書林日録』、田村治芳さんの『彷書月刊編集長』(いずれも晶文社)などを手がけた名編集者ですが、そんな中川さんに最初の単行本を作ってもらえたことは、ほんとうにうれしくおもっております。
もともと中川さんとも十数年前に高円寺の飲み屋で知り合いました。数年前に「編集の仕事を手伝ってくれよお」という電話があって、飲むことになり、いろいろ話をしているうちに、中川さんが新人の本が作りたいというので「じゃあ、わたしの本はどうですか」というような流れで出来たのがこの本です(さらにくわしいいきさつについてはこの本のあとがきを読んでください)。
装丁は間村俊一さん、装画は『sumus』の林哲夫さんにお願いしました。ふたりは大西巨人の『神聖喜劇』(光文社文庫)などを手がけ、わたしの「古本道」の大先輩にもあたります。公園で本を読んだり、酒を飲んだりするのが好きなわたしにとっては、これ以上ない素晴らしい装丁だとほんとうに感激しました。
『古本暮らし』の内容を簡単に説明すると、高円寺在住のひまな中年男が町を散歩して古本を買ったり売ったり読んだり、部屋の掃除をしたり、自炊したり、酒を飲んだりしている日常をつづったエッセイ集です。
天野忠、鮎川信夫、色川武大、梅崎春生、尾崎一雄、神吉拓郎、小島政二郎、十一谷義三郎、辻潤、西山勇太郎、庄司(金子)きみ、古山高麗雄、吉田満、山田稔、吉行淳之介といった詩人や作家も登場します。
当り前のことですが、本を買えば、本が増えます。部屋の壁はすべて本、床も本、そして台所や玄関、トイレにも本……。さらに本を買うとお金がかかり、本を買うために仕事をすれば、本を探す時間と読む時間がなくなります。
これは古本マニアにとっての永遠の矛盾です。わたしもまたひまさえあれば、生活と仕事の両立、読書と仕事の両立についてかんがえているのですが、そんなことを考えているあいだに仕事をするか、本を読めばいいのにとよくおもいます。