本を買うために、上京以来、髪もずっと自分で切り、外食もほとんどせず、服もめったに買っていません。いまだに携帯電話もなく、車の免許もクレジットカードもありません。
長年そういう生活をしているおかげで、倹約の知恵と家事のノウハウだけでは身につけることができました。
洋服ダンスは、いつも二、三割空けておくのが理想とよく整理術の本に書いてありますが、同様に、本棚もいつも余裕のある状態にしておけば、本もすぐ見つかるし、気持よく本が買えます。しかしそれがおもいのほか困難であることは、本好きにとってはいうまでもない悩みでしょう。
おもいきった処置が必要なのはわかっているのですが、おもいきるための心の準備はなかなかできないのです。
「本も売ったり買ったりしているうちに、自分がほんとうに必要とする本がわかってくるのかもしれない。でもそれがわからないうちは手あたりしだいに買うしかない。
なにを残し、なにを売るか。バランスをとるのがいいのか。偏ったほうがいいのか。ひとつのテーマを追いかけるのがいいのか。なんにでも対処できるように懐を深くかまえていたほうがいいのか。
なにかしらの制約を自分で決めないときりがない。
向き不向き、要不要。その見極めはとてもむずかしい」(「要不要」/『古本暮らし』より)
限られたお金と時間と本の置き場所をどう有効に活用するかということは、本好きにとっての切実なテーマだとおもいますが、わたし自身は、本を読むことによって、知識を増やすだけでなく、自分の考え方や感覚を鍛えたいともかんがえています。そういう意味では『古本暮らし』は、自分中心の読書のすすめになっているかもしれません。
とはいえ、毎日古本屋に通っていると、読書にたいする飢餓感がうすれてきますし、いろいろな本を読んでいるうちに、それなりに目が肥えてしまって、なかなか自分を満足させる本を見つけることがむずかしくなります。
好きな作家の本をたいてい読みつくし、未読のものはあと残りわずか。その残りわずかの本は、当然、入手難ということになります。読書家ならかならず経験する、そうした低迷、停滞をどう乗りこえればいいのかということも、この本のテーマになっています。
どうすれば古本屋に高く本を売ることができるかという長年の経験をふまえたコツのようなものもいろいろ書いたつもりです。
なお、この本は「文壇高円寺」(http://gyorai.blogspot.com/)というブログに発表した文章を中心にまとめました。興味のある方は、ぜひこちらのほうもご一読ください。
(おわり)