――地中海に沈む移民・難民の「尊厳」
クリスティーナ・カッターネオ 著 栗原俊秀 訳 岩瀬博太郎 監修
四六判並製 258頁
定価:2,200円(本体2,000円)
978-4-7949-7336-8 C0095〔2022年11月〕
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身元不明の遺体の
アイデンティティを求めて
ーガリレオ文学賞受賞作ー
「あの人たち」の権利を守り、「私たち」と「あの人たち」の死を同じように扱うことが、私たちの挑戦だったーー(本文より)
いまも昔も、世界中のあらゆる国々で、「身元不明の遺体」が発見されてるが、その多くの身元を特定されない。身元不明者が移民・難民である場合、その遺体を「放っておけ」と言う人々がいる。それはなぜか?
イタリア(ヨーロッパ諸国)には、領海内で遭難した外国人の身元特定にかかわる法律が存在しなかったが、法医学者である著者は仲間たちと協力し、ヨーロッパではじめて移民遭難者向けデータバンクの創設に取り組む。
近しい人の身元がわからず、藁にもすがる思いでときには親族のDNA(髪の毛や爪、唾液など)を携え、著者のもとへ訪れる人々たちの怒り、慟哭、悲痛。そして「ここに来てよかった」という言葉。
数字としてまとめられる身元不明の遺体、「顔のない遭難者たち」の背後にも、それぞれの名前と物語がある。遺された人が死と向き合うため尽力し続ける人々の法医学ノンフィクション。
「死者の身元を特定したいという願いは太古から続く欲求である。あの人はもう生きていないのだと納得し、その上で死者を埋葬したり、あるいはせめて、最期に丁寧に身なりを整えてやったりするためには、遺体そのものに触れる行為が必要不可欠となる」(第1章「二〇一三年十月 死者に名前を与えること」)
「では、なぜ、死んだのが「あの外国人(移民)たち」である場合は、抵抗なく受け入れてしまうのか? なぜ、このような事態を放置したまま、なにも行動を起こさないのか?」(第2章「『あの人たち』の死を、『私たち』の死と同じように」)
「『移民の遺体にたいしては、ほかの遺体(この場合、要するに、欧米人の遺体)にたいしてささげられるのと同じ努力を注ぐ必要はない』。見知らぬ誰かが、自分たちにことわりもなく勝手にこんな決定を下しているという事実を、移民の遺族は従順に受け入れてきた。遺族の頭のなかで、こうした現実がどのように解釈されているのか、私はどうにか想像しようとした」(「第4章 最初の同定 『ここに来てよかった』」)
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【目次】
第1章 二〇一三年十月 死者に名前を与えること
第2章 「あの人たち」の死を、「私たち」の死と同じように
第3章 ランペドゥーザの挑戦 見いだすには、まず求めよ
第4章 最初の同定 「ここに来てよかった」
第5章 「故郷の土を、肌身離さずもっているんです」
第6章 メリッリ 海辺の霊安室
第7章 バルコーネ 死者は生者よりも雄弁である
最8章 最終幕 あるいは、第一幕の終わり
訳者あとがき
文献案内
一九六四年、ピエモンテ州に生まれる。ミラノ大学教授、ラバノフ(犯罪人類学歯科医学研究所)所長。専門は法医学。二〇一四年より、地中海で命を落とした移民・難民の遺体の同定作業に従事している。その体験を綴った本書『顔のない遭難者たち』(Naufraghi senza volto: Dare un nome alle vittime del Mediterraneo, Raffaello Cortina Editore, 2018)で、ガリレオ文学賞を受賞。「犯罪と蝶々 自然科学が解き明かす謎」(Monica Maldarellaとの共著、二〇〇六年)、「体、骸骨、犯罪:ラバノフの物語」(二〇一九年)などの著作を通じて、法医学の魅力を一般読者にもわかりやすく伝えている。
一九八三年生まれ。翻訳家。主な訳書にアンドレア・バイヤーニ『家の本』(白水社)、アントニオ・スクラーティ『小説ムッソリーニ 世紀の落とし子』(河出書房新社)、イゴルト『ウクライナ・ノート』(花伝社)、ジョン・ファンテ『ロサンゼルスへの道』(未知谷)など。カルミネ・アバーテ『偉大なる時のモザイク』(未知谷)の翻訳で、須賀敦子翻訳賞、イタリア文化財文化活動省翻訳賞を受賞。
解剖医、千葉大学大学院医学研究院法医学教室教授。東京大学医学部医学科卒業。同大学法医学教室を経て二〇〇三年より現職。二〇一四年より東京大学大学院医学系研究科法医学教室教授併任、千葉大学附属法医学教育研究センター設立に伴いセンター長併任。著書に『焼かれる前に語れ』、『法医学者、死者と語る』(いずれもWAVE 出版)、『死体は今日も泣いている―日本の「死因」はウソだらけ』(光文社新書)。